ヒカリの話

自分が薬物依存の病気にかかっているとは気付くことすらできず、自分を正常な状態に保つために来る日も来る日も薬物を使い続けたヒカリの話です。

なんで自分は使っていないんだろう

ヒカリの話 | 仲間の話 - 大阪ダルク

今、自分は薬物を使っていない。
昨日も一昨日もその前の日も、薬物を使わなかった。
気がついたら「薬物を使わない生活」が半年続いている。

でも、最近「なんで自分は使っていないんだろう」って不思議に思うことがある。ちょっと前までの自分は、薬物のことしか頭の中になくて、毎日毎日、薬物を使う事だけを楽しみにしていた。マリファナ、覚せい剤、アシッド、エクスタシー・・・、いろいろな薬物に手を出したが、どの薬物も初めて使う時は不安で、必ずと言っていいほど躊躇した。けれども、一度使ってしまえばそんなことは関係なくなり、遊びで使っていたつもりの薬物が、いつのまにか自分にとって一番大切なものになっていた。そして、毎日薬物を使うようになり、次第に使用量も増え、立派な薬物依存症者に育っていた。薬を使わないと何もできなくて、起きていることも動くことも、何一つすることができなかった。だが、その時はまだ、自分が薬物依存の病気にかかっているとは気付くことすらできず、自分を正常な状態に保つために、来る日も来る日も薬物を使い続けた。


心の中では「このままじゃダメだ、そろそろ薬物をやめなきゃ」と思っていたが、結局やめられず、持っていた薬が少なくなったらまた買いに行くということの繰り返しであった。もう自分の力だけでは薬物をやめることができなくなっていて、誰かに助けを求めたくても、それができなかった。

仲間の言った言葉が今も頭の中に残っている

自分がダルクにつながったのは昨年の10月1日だった。

執行猶予の判決をもらった自分は、その足でダルクに向かった。はじめは実家に一番近い関東某所のダルクに行ったが、そこの施設長の配慮?によって自分は大阪ダルクに入寮する事に決まった。大阪に向かう新幹線の中で、いろいろな事を考えた。ちょっと前までの留置生活のこと、逮捕される前の荒んだ生活のこと、親や兄弟など迷惑をかけたであろう人達のこと、そして自分のこれからのこと・・・。

だが、不思議と不安な気持ちにはならなかった。
不安にならなかったというのは言い過ぎかもしれないが、「これでやっと解放される」といった安心感とも期待感ともいえるものが自分の中にはあった。唯一不安になったのは、台風の影響で新幹線が何度も止まったことで、ちゃんと大阪に着けるのかどうかが、すごく不安だった。

大阪に到着したのは夜の12時頃になったが、新大阪の駅に着くとそこには仲間が迎えに来てくれていた。その時に、今は大阪にいない仲間の言った言葉が今も頭の中に残っている。

「一緒にがんばりましょうね。」


 次の日から、大阪ダルクでの生活が本格的に始まった。
自分は人見知りが激しく、知らない人達の前ではすごく緊張し、何も話せなくなるんだけど、ここでもそれは変わらず、しばらくの間はずっと緊張しっぱなしだった。そんな時、自分を助けてくれたのはやはり仲間だった。特に、ナイトケアの仲間は、何から何まで自分の面倒を見てくれた。初めて会う仲間を紹介してくれたり、右も左も分からない自分をちゃんとミーティング場まで連れてってくれたり、しっかりとサポートしてくれた。おかげでいつのまにか緊張は解け、すっかり仲間に溶け込むことができた。
仲間に感謝。

しかし、なにもかもが最初からうまくいくはずはなくて、次第にこの「新しい生き方」に対する不満がでてきた。毎日何も変わらないミーティングばかりの生活、全く先が見えなくてすごく不安だった。でも一番強く感じていたのが「コントロール」だった。自分はいつも自由でいたいと思う気持ちがあり、それを感じられないことは、すごく嫌な事だった。何かきゅうくつで、囲まれているような、押さえつけられているような気が、ずーっとしていた。そんな不満を自分の中に残しながら今までこの生活を続けてきた。そしてある日、不思議な事が起きた。一人で京都に向かう電車に乗っているとき、ふと「今まで自分が思っていたこと、考えていたこと、話してきたことは、妄想だったんじゃないか」と、思った。それと同時に「なぁーんだ、自分は自由じゃん、誰にもコントロールされてないし、自由なんだ」ということが実感でき、押さえつけられて、囲まれていたように感じていたものから、一気に解放たれたような、すごい楽な気分になった。


今、何で薬物を使っていないのか自分でもわからない。
ただ、一つ言える事は、今の自分には薬物が必要ないということ。でも、いつ再び使うかわからない、いつも危険と隣り合わせにいる。明日はわからないけど今日だけは薬物を使う必要がない。

そう思うから今、この生活を続けている。これも妄想か??


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