出所後 ②

刑務所に2回、精神病院に11回入院をしてきた経歴がある仲間のをインタヴューして話してもらった体験談です。
再使用しながらも、大阪と埼玉のダルクを行き来して時間をかけた彼の回復への道のりを話してくれました。

刑務所と出所、そして再使用の繰り返し

出所後 ② | 仲間の話 - 大阪ダルク

――自己紹介をお願いします。

ヨシです。

今まで、刑務所に2回、精神病院に11回入院をしてきた経歴があるんですけど、あきらめずに回復をして、埼玉で待ってくれている彼女と幸せな日々を過ごしていきたいと思っています。
今の幸せを壊さないためにも、クスリの再使用だけはできるかぎりしないように、回復の基礎作りをしている途中です。


――回復の基礎作りとは?

今まで、刑務所に2回入ったけど、出所してきて仕事さえがんばれば、覚せい剤はやめられると思っていました。刑務所を出て、仕事を必死にがんばったけど、使わない期間が半年ぐらい経つとクスリをまた使ってしまって、そのあとは3ヶ月に1度使うという生活が続きました。自分でもクスリをやめたかったのですが、やめられませんでした。当時、同棲していた女性がいたのですが、僕にむかって「あなたは依存症なので、ダルクに行って、リハビリしてほしい」と言いました。それでダルクにつながりました。今から4年前のことです。

最初は、大阪ダルクに通所して、その後、入寮しました。
入寮した期間は3ヶ月でした。退寮して仕事に戻りました。仕事をして3ヶ月後、覚せい剤を再使用しました。そのあとは連続使用になり、精神病院の入退院を3回繰り返しました。同棲していた女性と別れることになって、その人と結婚するために購入していたマンションも手放し、ペット3匹も彼女が引きとって去って行きました。すべてを失った現実に直面するのが苦しくて、僕から大阪ダルクのスタッフに「大阪を離れさせてくれ」と頼みました。それで、埼玉ダルクに移って、入寮しました。埼玉ダルクでは5ヶ月間入寮しました。退寮し、東京で不動産関係の仕事につきました。仕事についてから4ヶ月で再使用をしてしまいました。

僕は、クリーンが半年ほど続くと、依存症という病気は治った、もう再使用をしないだろうという誤った自信が出てきて、過信してしまって、再使用することになりました。僕には、クリーン半年で仕事につくのはあまりにも早すぎて、回復の基礎作りをしっかりしないまま、社会に出て仕事についてしまったのが、原因なんだと実感しました。

それで今回は、1年間はしっかりとダルクでリハビリをして、回復の基礎作りをしようと取り組んでいます。今回は、埼玉から大阪に帰ってきたわけですが、1年間のクリーンをつくって、埼玉にもどっておいで、と埼玉ダルクの施設長が言ってくれています。今回、大阪ダルクに入寮し、9ヶ月が経ちました。

使い続ければ死んでいく病気で、何人も死んでいった仲間を見てきた

――ダルクでの入寮生活はどんな感じですか?

今は、1年間入寮してしっかりリハビリをしようと決めて、大阪ダルクに入寮しているのですが、入寮した最初のうちは、1年間と決めた入寮生活が持続できるかどうか不安でした。我慢できるかどうかわからないのでした。ただ、ダルクでやっているのは、今日1日のプログラムですから、今日1日ベストをつくそうと思って取り組んでいました。それで気がつけば、9ヶ月が過ぎています。

寮生活は、マンションの1部屋で、今は3人で生活しています。仲間と寝泊りを一緒にして、自分ひとりの時間をなくしていくことによって、クスリの欲求がおきてこないでいます。昼間もダルクで仲間と一緒。夜はNAという薬物のミーティングに参加して、そこでも仲間と一緒。寮に帰ってからも、仲間と一緒。やっぱり自分ひとりの時間をつくらないことが大切で、この単純な日々をコツコツと過ごしていくことが覚せい剤をやめつづけられることにつながっていくと思っています。

僕には、埼玉に彼女がいます。僕が1年間大阪ダルクに入寮して回復の基礎作りをするのを待っていてくれます。一度、途中で埼玉に帰っていいかなと彼女にきいたことがあるのですが、「1年間ダルクでプログラムを受けて回復して帰ってきてほしい」と言われました。僕に残された道はダルクでの回復なのだと思っています。再使用をして、もうこれ以上大切なものを失いたくないし、自分自身もこれ以上傷つきたくない。しっかりと1年間、入寮という形を選んで、ダルクのスタッフの提案を守ることが遠回りのように感じるけど、現実にはそれが一番の回復への近道だということがやっとわかりました。


――ダルクのスタッフからの提案とはどういうものですか?

例えば、相談できる相手を、一人でも多く作って、埼玉に帰るように言われています。1人よりも100人相談相手がいた方が心強いから、ダルクのスタッフやNAの仲間たちなど、相談相手を多く持つように言われました。

ダルクにつながった最初のころ、スタッフから元の仕事には3年間は戻らない方がいいと言われていたのですが、クリーンが半年ほど続くと、仕事に戻って失敗してしまいました。あわてて仕事をして失敗したことが2回続いているので、同じことを次にやっても失敗することは目に見えてます。今回はあせらず、ゆっくりと、クスリを使わない日を、1日1日のばすことだけを考えて、埼玉に戻ってからも埼玉ダルクに通所するつもりでいます。
薬物依存症という病気を自分で認めることからはじまって、本当に回復したいと思う気持ちがなければ回復ができないし、回復したいと思う気持ちだけでも回復はむずかしいし、やはりダルクで、回復してきたスタッフたちが経験などをふまえた提案をしてくれますので、その通りにこなしていくことが、一番大切かなと思います。
ダルクに行かなくても、回復できると考える人たちもいると思うけど、この病気の怖さというのは、自分が想像しているよりもはるかに巧妙で、治りにくい病気だし、僕自身も今までクスリをやめるためにいろんなことを試しました。仕事をがんばってみたりとか、彼女と同棲したりとか、ペットを飼ったりとか、マンションを購入したりとか。クスリをやめるために、いろんなことを試したけれど、結局はどれも失敗に終わりました。ダルクに来てからも、自分は他のダルクの仲間よりかは、早く回復できると思っていました。僕は回復を急いでいました。そのせいで、ダルクにつながってからも失敗を経験しているし、やっとダルクのスタッフの提案を提案どおりに、自分の考えを使わずに受け入れて、実践することが回復への道なのかなと思うようになりました。
この病気は、使い続ければ死んでいく病気で、何人も死んでいった仲間を見てきて、本当に心からこのクスリをやめたいと思うことがなければ回復はできないと思います。 


――はじめてダルクに相談に行く人は不安があると思いますが、そういう人たちにアドバイスはありますか。

ダルクには通所と入寮があって、僕は入寮の方が、携帯電話禁止とか、通所に比べていろいろと規則が厳しい分、回復率は高くなると思っていますが、経験豊なダルクのスタッフに面談してもらって、入寮向きか、通所向きか見極めてもらって決めるといいと思います。軽い気持ちで見学とかでもいいので、来てもらえればいいかなと思っています。
ダルクでは、刑務所みたいに人間関係が難しくなくて、入寮者は本当に覚せい剤をやめたいと思っている仲間ばかりなので、目標がみんな同じです。たまにはトラブルもありますけど、そういうときはダルクのスタッフに話をきいてもらったりしてトラブルを解決していきます。ダルクをつくった近藤恒夫さんが「回復とは問題を解決していくことができるようになること」と講演で話しているのをきいたことがありますし、スタッフからも「入寮者同士は仲良しこよしでなくてもいいから」というふうに言われています。掃除、洗濯、夕食、ご飯とか、自分のことをするだけでいい。

看護師さんからきいた話ですが、厚生労働省の調査では、薬物依存者は100人に対して2人しか回復できないそうです。ダルクにつながっている人では、通所と入寮含めて、1年間クスリを使わずにいられるのは3割くらいだともききました。ダルクが嫌になって途中で出て行く人たちもいますけど、そういう人たちは覚せい剤を再使用して刑務所に逆戻りすることが多いように思います。

これほど回復率の低い病気ですけど、ダルクでのミーティングに出ることによって、自分の過去のことをふりかえって考えることもできるし、仲間が話していることをきいて 気付かせてもらえることもあります。最初のころはミーティングが楽しくないとか、こんなことして大丈夫なんかとか、こんなことでクスリやめれんのかとか思いましたけど、今はダルクでのミーティングは大切やなと思っています。 

僕もダルクの寮を脱走をしたことがあります。僕は埼玉ダルクの寮を出たあと、東京で仕事をはじめてクスリの再使用をしてしまったのですが、そこでも精神病院の入退院を繰り返して、このままやったら僕の命が危ないと、埼玉ダルクの施設長が考えて、群馬県にあるアパリという施設に入寮することになりました。そこもダルクなのですが、入寮している人が30人くらいいて、はじめてそのダルクにつながった人なら続くと思うのですけど、僕は大阪と埼玉の都会型のダルクに慣れていたので、30人での移動がとても苦しくて、2週間ぐらいしてアパリを脱走しました。その後、大阪ダルクに「助けてください」とお願いして、今に至っています。


――最後に、このインタビューを読んでいる人へメッセージをお願いします。

クスリを使い続ければ、傷つくのは、自分自身。僕はやっぱり1回しかない人生を幸せに生きたいと思う気持ちが強いし、そのために薬物依存症は一生完治することのない病気ですが、回復していきたいと思っています。

クスリは人のためにはやめられない。
自分のためにしかやめることができません。


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